ホタル


まさかあの甲高い声の持ち主も、こんな所で活躍するとは夢にも思ってなかっただろう。あの店は一応『居酒屋』なのに、中学生の裕太が何で知っているのかという疑問はあえて聞かない事にした。高校生のあたしが言えたもんじゃない。

やがて裕太は歩きだした。数歩行った所で振り向く。はっとして、あたしも小走りで追いかけた。


何も話さない。
桜だけが、夜の闇に存在している。
微かな風は花びらをすくい、ふわりふわりとあたし達の前を横切っていった。
手を伸ばしたけど上手く掴めずに、指の間をすり抜ける。

裕太は小さく笑い、次の風に乗ってきた花びらを綺麗に捕まえた。あたしの掌にそっと乗せてくれる。サラサラしてるな、と感じる。


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