ホタル
掌に乗った小さな桃色を反対の手で掴もうとした瞬間、いたずらな風にそれを取られてしまう。
「あ」と呟いた瞬間には、もう空高く舞い上がってしまっていた。
あたしは空に顔を向けた。裕太も同じように頭をあげる。
風にのり舞いながら空を泳ぐ花びらは、やがて夜の闇に消えた。
風はもう吹かなかった。何故だかとても切なくなった。
桜を初めて、儚いものだと感じた。
儚いからこそ美しいのだと言ったのは、誰だっただろう。
全てそうなのだろうか。儚いものは全て、美しいのだろうか。
美しくなければいけないのだろうか。