ホタル
「まぁ、お帰りなさいませ!心配いたしました」
玄関ではまさみさんが出迎えてくれて、二人のスリッパを揃えてくれる。
あたしは「心配かけてごめんね」と呟き、足早に洗面所へと向かった。振り返る余裕はなかった。
ドアを開け、電気も付けずにそのまま閉める。ドアにもたれ掛かったまま滑るように座り込むと、胸の奥から熱い塊が込み上げてきそうになった。
『それ以外に何か理由がある?』
『あんまり弟に心配かけさせるなよ』
......ねぇ裕太。
あたしは本当にダメなお姉ちゃんだね。
心配ばっかかけて、迷惑ばっかかけて、
挙げ句の果てに、あなたを弟と思えないなんて。
目を閉じた。瞼に浮かぶ桜の残像をかき消した。
お願い、泣かないで。泣いちゃったら止まらないから。泣き腫らした目を、裕太に見られるわけにはいかないから。
あなたを想って泣くことすら、あたしには赦されないんだ。