ホタル


担任の涙脆い桑ちゃんをからかいながら、きっと今頃号泣しているであろう彼の姿を想像して2人笑った。
1人しか明らかに通れない軋む屋上のドアを開け、先に英里が校舎へと足を踏み入れる。

「何だかんだ桑ちゃんうちらのこと可愛がってたもんね」
「いえてるっ!あっ、覚えてる?2年の時の数学の授業でさぁ......」

英里に続いてあたしも校舎に入ったが、ふいに階段の上で立ち止まる英里に気付き話を止める。さっきまで太陽の下にいたからか、暗い校舎に目が慣れない。

「英里?どした......」

英里の顔を覗き込もうとしたが、その前に暗い踊り場に視線を向けてしまった。そこにいた人からあたしは視線を動かせなくなり、英里に顔を向けることはできなかった。
久しく呼んでなかったその名を口にする。



「......平岡君」



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