ホタル


夕日が満ちている放課後の教室に二人きり。絶好のシチュエーションだ。
平岡君の思いがけない告白に、あたしは戸惑いを隠せずにいた。そして同時に、涙が出そうになっていることに気付く。

「今すぐ返事はいらないから。少し…考えてみて」

平岡君はそう言い残し、軽く会釈をするとあたしより先に教室を出ていった。入り口で立ち尽くすあたしの背中に、駆けていく彼の足音が響く。

呆然と立ち尽くしていたが、やがて膝の力が抜け、あたしはその場にへたりこんだ。焦点が定まらない視線を夕日の中で泳がす。


『好きだった』


…自己嫌悪で吐きそうだ。かきむしられた様に胸が痛い。

平岡君は好きだと言った。あたしの事を好きだと言った。


裕太と瓜二つの声で、好きだと言った。


…頭が痛い。現実が現実と捉えられない。

泣きそうだった。目を閉じるとあの声だけが蘇る。
スカートの裾を固く握りしめ、自分の中の残酷な欲望を掻き出そうとした。


…野球部の掛け声が耳に戻ってきた頃には、夕日の位置は随分傾いていた。











……………







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