ホタル
「珍しいね、朱音が年上以外をすぐに断らないなんて」
英里の疑問は当然だった。あたしは今まで同級生に告白されてその場で断らなかったためしがない。
「…声がね」
でも今回は勝手が違った。
「声がそっくりだったんだ。…裕太に」
英里の動きが止まった。手にしていたハバネロを元の位置に戻す。
「…声?」
「うん。ほんとに…驚くほどそっくりで。だから告白された時…あたし、思考回路止まっちゃって」
ははっと苦笑しながら髪を触る。戸惑っているときのあたしの癖だ。
「…最低だよね。平岡君の告白を、あたしは裕太とダブらせた。ほんともう…自己嫌悪だよ」
どうしてあたしはこれ程までに裕太中心で考えてしまうのだろう。普通の恋をしてる子達もそうなのだろうか。普通の恋って何?
こんな汚れた忌むべき想いは、恋と呼んでもいいの?
わからない。わからないからこそ、きっと誰かを傷付ける。