ホタル
ふいに玄関のドアが開く音が響き、階段を上がってくる足音が聞こえた。英里は小さく「あ」と呟き、前触れなく部屋のドアを開ける。蹴り開けたと言った方が正しいだろうか。
「修平、飲み物買ってきて」
無遠慮この上ない一言。「お帰り」の挨拶一言もなし。まぁ、英里らしいけど。
廊下に立っていた男の子は、口にはしないものの明らかにげんなりした表情を浮かべている。
「いきなりなんだよ」
「リプトンのレモンティーとミルクティー。ファミマで買ってきて」
「はぁ?俺疲れてるんですけど…」
「あ、リプトンの新しい味出てたらレモンティーの代わりにそれにして。でも不味かったら修平のせいだからね」
彼の話しは何一つ聞いていない英里はサクサク話を進める。いや、聞いてはいると思う。彼に拒否権がないだけで。