ホタル



…少し歩いた所に小さな公園がある。まだ新しいけど特に目立つ場所にないからか、利用者は少ない。あたしはよく、学校をサボる時に着替え場所としてトイレを利用していた。

しばらくそこで時間を潰そうとしたが、ふいに耳に入ってきた声で一瞬立ち止まる。


「…で…いいじゃん~」
「だめ」
「え~…やだぁ…でしょ?」

微かに聞こえる男女の声。よく見えないけど、公園の入り口の所に一組のカップルがいた。何を話しているのかは聞き取れないが、女の猫なで声が妙に耳につく。あたしは小さくため息をついた。

カップルはあたしに気付いていない。公園の角に腰を下ろし煙草を取り出す。闇に目が慣れてくると、はっきりと二人が見えてきた。

学ランとブレザーのカップル。女の制服は近くの私立校のものだと思う。公園の入り口に男が腰をかけ、女は彼の足の間に立ち腕を肩に回している。女は男の髪を触り、たまに笑いながら体を揺する。

そこまで見てとれた時、なんだか覗き見をしているような妙な罪悪感に駆られ目をそらした。下手な路上ライブよりもイチャイチャしてるカップルの方がよっぽど迷惑だ。

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