ホタル
あたしは煙草に火を付けようとライターを取り出した。瞬間、ふいに煙草の香りが漂った。
まだつけてない。あたしの煙草じゃない。
それでもあたしが反応したのは、あたしの煙草と同じ匂いだったからだ。マイルドセブンの香り。
思わず視線をもとに戻す。女のイチャイチャぶりが目につきすぎてあまり目につかなかった男の方に目を向ける。
さっきまで首筋にまとわりついていた女は、男の右膝の上に座っていた。男が煙草を吸い始めたからだろう。さっきよりも随分二人の顔がはっきりと見えた。
そう、見えてしまった。
公園の入り口で煙草を吸う、裕太の顔が。
…思わず、手にしていた煙草を落とした。煙草でよかった。ライターだったら音がして気付かれてたかもしれない。
あの猫なで声の女子高生の隣にいるのは、裕太だった。見間違うはずがない。煙草の吸い方も落とすような視線も、全てが裕太だった。