【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
それから翔とたまに涼も交えて、他愛もない会話をしていた。
未だにカウンター席に座ったままの涼には、もう何も言う気にもなれなくて、そのままにしておいたけれど。
時刻が9時に差し掛かった時、それは突然訪れた。
「あ!翔く〜んっ!!」
ペタリ。
その表現がピッタリだったと思う。
今店にやって来たばかりだと思われる女の子。
甘ったるい声を発して、翔の背中にくっ付いて頬を擦り寄せる。
私はただ、その衝撃的過ぎる目の前の光景に固まり、言葉を発する事は出来なかった。
「…離れろよ、泉」
普段よりも1トーン低い声を出した翔は、背中に顔を埋めた彼女をやんわりと振り払った。
「もぉ〜翔君ってば杏里って呼んでって言ってるじゃん〜」
膨れっ面で顔を上げた彼女。
真っ白い肌に、黒い綺麗なサラサラロングヘアー
大きい真ん丸な瞳を翔に向ける彼女。
…あ
その顔には見覚えがあった。
泉杏里(いずみあんり)…確か16歳で私の1つ下の学年。
親が大手事務所の社長で、愛娘である彼女は、今絶賛売り出し中の女優だったはず…