剣と日輪
「相手は?」
 吉田は、公威の酔狂(すいきょう)に付き合う事にした。
「そうですねえ。先ず僕が面長だから、丸顔でプリティな子がいいな。美女と野獣は古(いにしえ)より結ばれる定めにある」
「いいねえ。羨(うらや)ましい」
「からかわないで。真剣なんですよ」
「そうかい」
「身の丈は、小柄がいい。僕が小男だから。ハイヒールはいても、背の釣合いがとれる女性だな」
「いいなあ。夢があって」
「最後に、僕の親と合う人。家事をこなせる事。嫁姑問題で、鴎外みたく懊悩(おうのう)したくないし、僕は掃除、洗濯(せんたく)、料理が苦手だからね」
 公威の夢見るような悦(えつ)色(しょく)に吉田は、
(こんな英才でも、我々と変わらんな)
 と妙に安著(あんちゃく)したのだった。
(俺は来年結婚するぞ!)
 三十代前半の公威に、
「かけたる事」
 は無く、子孫を増殖(ぞうしょく)し、平岡家安泰の礎(いしずえ)を築くべき時期なのだった。
 公威が結婚に前向きになったのは、十二月十四日に、ニューヨークのジャパンソサエティが主催したパーティーに出席してからである。
 パーティー会場で、邦子と会遇(かいぐう)したのであった。邦子は銀行家の主人の海外赴任に伴って、昨夏(さくか)よりニューヨークで暮していたのだ。九年ぶりに再会した邦子は、マダムという語感に相応(ふさわ)しい豪奢(ごうしゃ)な優雅(ゆうが)さを身に付け、艶(つや)やかな紅色(べにいろ)の色彩(しきさい)模様(もよう)の着物を纏(まと)っていた。






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