剣と日輪
 が、昭和元禄と俗称される今者(きんしゃ)の日本風俗の動脈となってしまっていた。
「自衛隊のみが、日本文化を継承しているのではあるまいか」
 必勝は戦車の中でそう気付いた。
「企業は新人の腐った頭を切り替えるべく、入隊させるのだろう。日本の教育界は堕落し、社会人はエコノミックアニマルと化して、目前の利殖を追うのみ。日本という国家国民の指針を探っているのは、自衛隊だけなのではないだろうか」
 必勝達は夕食の最中や、休憩中に隊員を摑まえては、
「憲法九条をどう思うか」
 とか、
「若し共産党政権になったら、諸君はその政府に服従できるのか」
 といった鋭い問答を交わした。
 隊員達は自衛隊の存在を憲法違反と罵る者達の論拠となっている憲法九条については、
「自衛隊は軍隊ではない。それに九条は正当防衛まで認めていない訳じゃない」
 と佐藤栄作内閣の閣僚の代弁の如き、曖昧な口答(こうとう)をした。但し、
「だが、個人的見解としては、憲法九条は改正すべき」
 と見解を述べる隊員が一般的だった。
「共産党政権の命令に従うか」
 と斉藤英俊が肉迫すると、どの隊員も、
「まあ、従わざるを得ないだろう」
 と語尾を濁しつつ、浮かぬ口(こう)言(げん)をした。
(若しそうなったら、クーデターを起こす位の勇気を持てないのか)
 必勝は内心がっかりしたが、彼等の愛国心、温厚なる勇猛心に免じて、そこまでは言及しなかった。
 北の荒野はどこまでも広く、必勝達を呑み込んでいた。
(人間とは、大自然の前では何とちっぽけなんだろう)
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