剣と日輪
 平岡家の玄関右コーナーには、エル字型の長いベンチが備え付けられている。メイドは世話好きのおばさんよろしく、馴れ馴れしく高校生を呼び寄せて、
「そこへ座ってなさい。先生が五分だけ会われるから」
 と腰掛けさせると公威に、
「高校生が玄関でまってます」
 と告げた。
「分かった」
 公威は、
「仕方が無い」
 と玄関に降りた。
「今日は」
 丸刈りの少年は折り目正しく一礼し、住所と姓名を名乗った。
 公威は、
「五分だけだよ」
 と断って対座したのである。
 高校生は、
「大学受験で上京し、明日帰郷しなければならないので、どうしても今日しか時間がなかったんです」
 と身勝手な事情を説明した。
「君の都合はわかるが、私にも都合があるんだよ。君みたいな人に一々会ってたら、それだけで一日が終ってしまうよ」
 公威は襟元のホック迄つけている赤ら顔の初心な少年を窘(たしな)めた。緊張でトマトの様に紅潮している。
「はい。すいませんでした」
 高校生は低頭するしかない。
「謝るようならしないことだね」
< 319 / 444 >

この作品をシェア

pagetop