剣と日輪
 風の便りでは、蓮田は南方に防人として出向し、ジャワ辺りに駐屯しているらしい。
(蓮田先生、富士さん、三谷等の級友達、皆居なくなった。何れ俺も)
 公威には幾許かの時限しか残されていないのだ。
(俺は無為に時を費やせない)
 公威は、
「入営前にせねば」
 という強迫観念に背中を押されるまま、
「花ざかりの森」
 成功の余勢を駆って、
「中世」
 という新作の売込に躍起になっていた。
 公威は栗山理一の紹介で、十月に創刊された、
「文芸」
 編集長野田宇太郎と河出書房社屋内で、十一月に面談した。
 詰(つめ)襟(えり)で、
「中世」
 を熱っぽく説く公威にほだされて野田は、
「中世」
 を一読したが、
(文体が堅苦し過ぎる)
 という感想だった。
 公威が王子製紙との深いパイプを強調して、用紙の供与を仄めかすところも、野田には、
「奇異な若者」
 という悪印象を与えた。
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