剣と日輪
花ざりの森編終末
 公威は冷却してしまった愛慕にもかかわらず、最前と変わらぬ恋文を交換しあっていた。それは悪戯にもならない残酷な仕打ちであったが、公威はどうしても、
「愛していない」
 とは書けなかった。
 ずるずると光陰ばかりが進捗して行く。七月になると、
「本土決戦」
 に備え、三谷の所属する連隊が、東京近郊に移駐してきた。公威は三谷家の婦女子と連立ち対面に行く運びとなり、邦子と肩を並べたのである。
 公威はコチコチに固まり、邦子と上手く話談できなかった。
(人間正直なものだ)
 公威はこれまで三谷家の方々の前に積み上げてきた秀才の肖像が、音を立てて自壊していく過程を観察していた。そしてそのぎこちなさが、三谷家の家人に良い方に誤解されているであろう、とも見当している。三谷が別れ際にこやかに宣告した。
「何れ近日中に、手紙が届くぞ。待っていたまえ」
 公威は戦慄(せんりつ)した。
(明日、大空襲がないものか)
 とさえ祈願した。邦子は敗(はい)徴(ちょう)など別世界の出来事、といった面(めん)情(じょう)であった。
「生きていれば」
 公威のやけくその切返しに、邦子がきっぱりと告知した。
「貴方は死なない。私が毎晩神様に、貴方の無事をお祈りしてるもの」
(神などいない!)
 公威の叫声は、喉元で溶けていった。
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