剣と日輪
仮面の告白編焼跡
 全世界で六年間を通じ、延べ五六四六万の死傷、行方不明者を出した人類史上最大の大戦争が終結した。宇内(うだい)の人民は連合国軍の勝利に沸き、敗戦国の国民にとって悪夢の様な日常が滑り出していった。大日本帝国は連合国に占領され、地上より倒壊(とうかい)していった。外地に居た日本人は、引き揚げる事となったが、満州に居留していた士(し)衆(しゅう)は、終戦後も攻撃の手を緩めないソ連軍の毒牙(どくが)にかかり、婦女は陵辱(りょうじょく)され、丈夫(じょうふ)は殺害若しくはシベリアの不毛の大地に抑留(よくりゅう)されていった。
 南方からの帰還も混乱の極(きわみ)にあった。帝国軍人は存在意義を失い、通(つう)敵(てき)行為に走って保身を図る輩も続出した。
「文芸文化」
 創始者で、
「三島由紀夫」
 のゴッドファザーである蓮田善明は、終戦時マレー半島のジョホールバールに駐屯していた。陸軍歩兵中尉で中隊長であった。
 蓮田は俳優の長谷川一夫似の美顔を曇らせながら、敗戦のショックで、居たたまれぬ日夜を過ごしている。大和魂を尊び、天皇の神兵たる栄誉に殉ずる心胆を誇っていた蓮田は、連隊長中条数馬の背信に憤っていた。軍旗の決別式において、大佐は天皇を中傷する訓示を垂れたのである。
(これでは、負ける筈だ)
 蓮田は、天皇に詫びた。
 戦争末期からの軍律の惑乱は目に余るものがあった。米軍に西太平洋の制海権を握られてからは、南方戦線に駆出され、東南アジアに駐留している部隊は本国からの物資を載せた艦船が米軍に撃沈させられていたので、孤立無援となっていた。本国から隔離され、異国で孤軍奮闘していた戦隊にとって、政府の敗北は寝耳に水だった。指揮官達は兵以上に困頓(こんとん)し、米軍に投降したり、仲間を売る者、天皇を侮辱する者さえ出てきた。
(嘆かわしい。恥を知る日本精神は、何処に行ったのだ)
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