しあわせ色の恋~想いよ、永遠に~


別にタクシーが恋しいわけじゃないけれど。

それが小さくなるまで、ずっと、2人で見送っていた。


静かだ。

風が吹く度に、稲穂が鳴いていた。



ジャリ――。

レオくんの足元で、砂の音。


「覚悟、決めないとな」


そう言うレオくんの横顔は、タクシーの中よりも暗い表情だった。


お互い深呼吸をし、唾を飲み込む。


もう、手が届く位置に、お母さんがいる。


階段を上り、201号室。

そこには、“吉田”の文字。


眉をひそめてレオくんを見上げると、


「これ、母さんの旧姓」


と、教えてくれた。



旧姓ということは、再婚はしていないってこと……?


ゆっくりと、チャイムに手を伸ばす。


どうしよう……ダメだ。

震えてしまう。


心臓が、ありえない動きをする。



ピンポーン――…


高めの音で鳴ったチャイム。


と、すぐに、ドサッと鈍い音がした。


それはカギを開ける音でも、ドアを開ける音でもない。


それに、聞こえてきたのは。


私達のすぐ隣からだ……。





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