ダウト-doubt-
二年半もの間、続いていた関係も、失ってしまえば、何も残らない。
友達でも、恋人でもない、曖昧で、中途半端な関係だったから、プレゼントの類いを貰う事も、滅多になかった。
唯一、貰った物といえば、この灰皿くらい。
煙草の火を、ちゃんと揉み消さないあたしに、心配性のあの人が、誕生日プレゼントとしてくれた物だ。
「これに突っ込めば、火が消えるから」
そう言って、火消し石を指さしながら、真面目な顔をしていた。
『そういえば、あたしも何もあげてないな…』
ぼんやりと、そんな事を思った。
今年の正月、初詣のついでに買ってきた御守りくらいだろう。
仕事上、危険が付きまとうあの人が、今年も無事で居られますように、そう願いを込めて。
形ある物は、何も残さないようにしてきた。
いつ終わるとも知れない、あやふやな関係だったから。
それなのに、記憶とか想いとか、形にならない物が、皮肉なくらい、鮮明に残っている。