雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
なるべく静かにベッドから下りたつもりなのに、微かな揺れで響も目を覚ました。
「紗矢花……水欲しい」
毛布に顔半分を埋めたまま響は頼んできた。
私は仕方なくキッチンへ行きグラスに水を入れて手渡す。
「最近、あいつには会ってないのか?」
体を起こした響は水を飲み干し、私へ尋ねる。
「……あいつって?」
わかっていたけど、わざと聞き返してみる。
「おまえがよく二人きりで会ってたヤツのことだよ。俺はほとんど話したことないし、名前なんて忘れた。売れないピアニスト、だったか」
“売れない”という言い方は失礼だけど、やっぱり遼のことを言っているよう。
「……遼ならずっと会ってないよ」
もう、二、三ヶ月会っていない気がする。
私も学校のことで忙しかったし、遼も副業の音楽講師の方が忙しいのか連絡がない。
「遼には彼女がいるみたいだから大丈夫だよ? 私のことなんて相手にしてないと思う」
「……彼女、ね」
響は何か考え込むように床を見つめた。