雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
ベッドから抜け出した響は、テーブルの上から煙草を取って火をつける。


「そういえば、もうすぐ紗矢花の誕生日だな」

「覚えててくれたの? ……嬉しい」


私は響のそばへ行き、抱きついた。煙草のきつい匂いがする。


「プレゼント、何がいい?」


空いている方の手で私の髪を撫で、響は掠れた声で聞いた。


「私は……響が一緒にいてくれれば何もいらないよ」

「どうした? 紗矢花らしくないな。希望がないなら勝手に買ってくるぞ?」


煙草を灰皿に置いて私の頬に手を伸ばす。


「いいよ。響が選んでくれたものなら」


耳元で囁き、わずかに顔を傾け彼に深く口付けた。

かすかに、苦い煙草の味が広がる。


この唇も、髪を撫でる指先も。私だけのものではない。

私と逢っていない時には、別の女に触れている。

それを想像すると、目に涙が滲んできた。気づかれないように、そっと目尻を拭う。

響が……自分だけのものだったらいいのに。


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