雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
遼は目をそらし、少しの間を置いてから口を開いた。


「……いないよ」


望みどおりの答えに、どこか安心する。


「あの彩乃さんっていう女の人は? 私に遼の彼女ですって挨拶してきたよ」

「……ああ、そういうことか」


綺麗な眉を微かにひそめ、遼は何やら低く呟いた。


「彩乃と付き合っていたのはだいぶ前のことで、今はもう彼女じゃないんだ」

「そう、なの……?」


だとしても、彩乃さんが遼のことをまだ想っているのは確実だ。あれが演技だったとは思えない。


「今まで彼女がいるように見せかけていたのは、紗矢花の彼氏に疑われないためだよ」


そう言って遼はゆっくりと妖艶な笑みを作った。


「そうしておかないと、警戒されて紗矢花には二度と逢えなくなると思ったから……」


その優雅な微笑に不安を覚え、彼の視線から逃れるように窓へ顔を向ける。

窓硝子には雨の雫がいくつか流れていた。


あの日私にキスをしたということは、遼は私を妹とは思っていない?

今の自分と同じように異性として見ている?


それは一体いつから……?
それともただの気まぐれ?


急に遼はソファから立ち上がり、私に近づいた。

それだけで心臓がおかしいほどに跳ね上がる。私はうつむき、胸元を押さえた。


「――だから、また紗矢花が僕と逢ってくれて嬉しいよ」
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