雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
手を伸ばせば届くところまで歩み寄り、彼は微笑みを消して私を見下ろす――。
節の目立つ細長い指が、私の頬に伸ばされた。
「りょ…う……?」
私の唇から掠れた声が出る。
また、キスされる……?
そう思ったとき。遼の視線が窓の外へ向き、私のそばから離れて行った。
「隼斗が来た」
「……お兄ちゃんが?」
「紗矢花、知らなかったの?」
振り返った遼が首を傾げる。
「今日は隼斗たちが地下のスタジオ借りるって。……知ってて僕の家に来たのかと思った」
外を見ると確かに兄の車が停めてあり、ちょうどインターホンが鳴った。
遼が応答し玄関の鍵を開けに行く。
兄の行動はいちいち把握していない。
こちらが尋ねない限り教えてはくれないから。
リビングに戻ってきた遼は一人だった。
兄はそのまま地下へ直行したらしい。
「ジンも来てるから、あとで練習を見学しに行ったらいいよ」
「ジンも? じゃあ、そうしようかな。最近ずっと会ってなかったんだ」
滝沢仁は兄の高校時代からの友人で、大学も兄と同じ医学部に通っている。
高校の頃はよく家に遊びに来ていたので、私も仲良くさせてもらっていた。