雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~

遼がソファに戻る前に、彼の電話が鳴った。


「――はい」


いつもより低い声で電話を取り、遼は寝室へ入っていった。


誰だろう? まさか彩乃さんとか?


しばらくして部屋から出てきた遼は、なぜかスーツに着替えていた。

私は初めて見る彼のスーツ姿に目を奪われる。


うっすらとストライプの入ったダークグレーの上下。

清潔感のある真っ白なYシャツ。艶のある藍色のネクタイ。


いつにも増して大人びた雰囲気で、つい見惚れてしまう。

スーツを着た男の人は、どんな人でも二割増しに映るのはどうしてだろう。


「ごめん、紗矢花。事務所から連絡あって、ちょっと出かけないといけなくなった」

「そうなんだ」

「すぐ戻るから、待っててくれる?」

「……うん、わかったよ。地下にでも遊びに行って待ってるね」


私が返事をすると遼は申し訳なさそうに微笑み、車のキーを持って出かけて行った。
< 62 / 126 >

この作品をシェア

pagetop