雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
遼がソファに戻る前に、彼の電話が鳴った。
「――はい」
いつもより低い声で電話を取り、遼は寝室へ入っていった。
誰だろう? まさか彩乃さんとか?
しばらくして部屋から出てきた遼は、なぜかスーツに着替えていた。
私は初めて見る彼のスーツ姿に目を奪われる。
うっすらとストライプの入ったダークグレーの上下。
清潔感のある真っ白なYシャツ。艶のある藍色のネクタイ。
いつにも増して大人びた雰囲気で、つい見惚れてしまう。
スーツを着た男の人は、どんな人でも二割増しに映るのはどうしてだろう。
「ごめん、紗矢花。事務所から連絡あって、ちょっと出かけないといけなくなった」
「そうなんだ」
「すぐ戻るから、待っててくれる?」
「……うん、わかったよ。地下にでも遊びに行って待ってるね」
私が返事をすると遼は申し訳なさそうに微笑み、車のキーを持って出かけて行った。