亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

しかしそれも、ただの椅子ではない。

一つの大陸に、一つの国にたった一つしかない、そして神の溺愛するたった一人の人間だけが腰掛ける事が出来る……それは、玉座。
国の最高権力の居場所となる、唯一無二の玉座なのだ。



だが、盲目であるダリルがその飾り同然の濁った瞳で真っ直ぐ見つめるのは…煌びやかな装飾でも、歴史ある玉座でもない。


彼が見上げるのは、その人。
彼が唯一畏敬の念を抱く、その人物。


彼の眼差しの先には、大きな玉座に腰掛ける一人の人間…女性の姿がある。

まず目を引くのは、天使の輪が浮かぶセミロングの豊かな金髪と、長い睫毛に縁取られたスカイブルーの美しい…しかし凛とした強さを秘めた双眸だ。
色白の肌に、どちらかと言えば小柄でほっそりとした身体。
その身に纏うのは緑と黒を基調としてドレス…ではなく、ビシッと決まった男性用の衣服だが、それが何故か似合うから不思議である。


威厳ある玉座に小柄な身とは不釣り合いではないかと思われるが…彼女の醸し出す空気が、そんな見た目だけの違和感など吹き飛ばしてしまう。


彼女がいるからこそ、玉座は玉座として存在出来る。
そう思えてならない程に、彼女の存在価値は凄まじい。





玉座に堂々と居座る彼女こそ…神の溺愛する人間の一人。


そこに君臨する、我等の主。
この国の頂点に立つお人。





第三国家フェンネルを統べる国王。
フェンネル王54世、ローアン=ヴァルネーゼ。

齢二十一にして天性の王と称される、この大国の女王陛下である。




玉座から見下ろした先に佇むダリルが素直に黙ると、その美しい小さな唇からは物憂げな吐息が静かに漏れて出た。

傷だらけの玉座の肘掛けにゆっくりと頬杖を突き、外から漏れ出る春の木漏れ日を横目で眺めながら…ローアンは微かに笑みを浮かべた。


「………先送り、か。……困った王様だな、まったく」

溜め息混じりではあるが、その表情は何処か呆れ半分、楽しげにも見えた。










ローアンがそれまで断絶されていた三国間の国交に着手しだしたのは、彼女が即位した頃からだった。
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