キミを抱く

4時間目の数学

空腹でお腹が鳴るのは
恥ずかしいから

という
一応かわいい乙女心ゆえ

こっそりポッキーを
食べながら受ける

念仏のように
眠たくなる数式を
倉田先生は唱えながら
黒板に書いていた

まくったシャツから
見える
血管の浮き出た腕

チョークを握る
長い指

あの長い指が
毎日 私に
言葉を送る

数式を
黒板に書き終えて
こちらを向いた
倉田先生の頬には
やっぱり
赤いかっちゃき傷が
あって

思わず
うぷぷ
って
笑いそうになった時

目が合った

たぶん
私が笑いそうに
なったのが
わかったんだろう

倉田先生は
一瞬
ギュッと眉を寄せ
イヤ~な顔してから

「したら問①
藤沢さん前に出て
解いてください」

なんて
今度は涼しい顔して
当てやがった

不意打ちに
「へぇっ!?」
って変な声が出て
クラス中から
失笑がもれた

ちくしょう
スプーめ

席を立ち
教壇に立って
倉田先生から
チョークを受け取る時
にらんでやろうかと
思って
やっぱり止めた

倉田先生と私の関係は
誰にも
感づかれたくない

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