流華の楔




先程の男は一室に和早を案内し、「少し待っててください」と残し出ていった。



おそらく上の人間を呼びにいったのだろう。



それから暫くして、人柄の良さそうな男と、美貌の青年が入ってきた。





「さて……君は浪士組に入隊したいのだったな。一つ聞くが、それは自分の意思かな?」


中央の、人が良さそうな方の男が問う。




「……はい」



答えながら、もう少し浪士じみた服装を選ぶべきだったか──と思った。


浪士組は初期段階こそ公式に結成された部隊だが、今では先も判らぬ状態に等しい。
給金目的でない者が自ら進んで入隊しようとは思わないはず。


むしろ和早のように身なりが良く位が高い侍は決して関わりたがらない。





「俺は構わないが……トシ、お前はどう思う?」



「……いいよ。あんたがいいって言うんならな」



高くも低くもない透き通った声が室内に凛と響く。


トシと呼ばれた青年、土方歳三は、見定めるように和早を見た。




「てか、そんな女みてぇな腕で戦えんのか?」



「……まあ、一応は」



土方の容赦ない言葉に、和早は思わず苦笑いを浮かべた。




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