静かなる蒼き雷鳴（仮）

　カントはクトロンがそれを見ていたことを確認してから、ゆっくりと目を閉じた。
クトロンにはその行為が、何を意味するのか理解できなかった。
だが、自分も同じようにしなくてはいけないのではないか？　
　そう思ってしまう強制力をカントから感じ取り、同じように目を閉じた。
　（ありがたい・・・・・・　親父は良いとして、クトロン将軍も目を閉じてくれるとは）
　キムンは、状況に感謝した。
　ゆっくりと酸素を肺に取り込み、キムンは気を練り始めた。
見えない重圧感が、周囲に満ちていく。
　それに呼応するかのように、ルー師範の姿勢が上がり、中腰の体制をとっていた。
マスタークラスが発する気が、部屋中に充満していくを感じ、目を閉じてしまったばかりに五感が研ぎ澄まされ、クトロンの額には油汗が吹き出ていた。
　十分な気を練り、キムンは左側面に携えている小太刀に左手を添え、右手は背後にある小太刀の柄を逆手に握り締めた。
　（やっとここまで・・・・・・　いや、ここからやっと始まるのだ。　ここから始まる、明日のために）
　部屋中に充満していた「気」の重圧が、二人の中に吸い込まれるように消失した。
　「参る！　」
歯切れの良い短い声が、無音の空間に小さく響いた。
　それを合図にしたかのように、ルー師範の口が開き、わずかに遅れてキムンも同じ旋律奏でる。
　「マハリト！　」
　中規模範囲の火炎魔法が、二人の間でぶつかり燃え上がった。
　キムンはかまわず、収束寸前の炎の中へ踏み込んでいった。
　歩く歩調とは同調しない動きだった。まるで滑るように物凄い速さだ。
　炎の消失とともに、キムンの姿が躍り出る。
　そしてキムンは、左手の小太刀で目の前の空間をなぎ払うかのように腕を振った。
　「キンッ！」という短い音が響く。ルー師範が放った、居合いを小太刀に込めた気でなぎ払ったのだ。
　（よし。初太刀は避けた。一気に飛び込むしかない。）
　猫のように体を沈ませた瞬間、キムンの姿がその場所から消えた。
　蒼家に伝わる歩走法の奥義、「無拍子」。神速を極める技の故に、伝承だけが残り、使い手はいないとされていた。