静かなる蒼き雷鳴(仮)
 瞬きをする間に、眼前にルー師範の姿が迫っていた。
 キムンは残った気を、これから放つ一撃のために小太刀に込める。
 しかし、それよりも早く、ルー師範の刀が振り抜かれた。
 (早い! しかし、予想外ではない。いける)
 キムンの小太刀がそれを受け止める。
 だが、気の充填が不十分だったために、左手の小太刀は砕けるように飛散した。
 すぐさまキムンは、残る右手の小太刀を引き抜き、次の攻撃へ移ろうとした。
 しかし、その斬撃に不思議な違和感を感じ取り、小太刀の背を腕にあてがうよう押し付け、胸の前にかざした。
 そしてキムンの小太刀は、胸の前で二つに別れていった。
 「ぐはっ!」
 キムンの口から、声が搾り出た。胸の辺りが陥没し、肺の中の酸素が強制的に吐き出された声だった。
 (居合いの二連撃だと? ありえない・・・・・・だが、勝ったぞ)
 突進の勢いも利用し、渾身の力を込めて折れた小太刀をキムンは振りぬいた。
 そして勢いのまま、キムンはルー師範の右肩をかすめ、糸の切れた人形のように前のめりに倒れた。
 その音が試験の終了と感じ取り、カントとクトロンは目を開いた。
 そこには前のめりに倒れたキムンと、右腕を押さえながらたたずむルー師範の姿が映っていた。
 「ルー・・・・・・、ルーミナ殿、状況は、ど、どうなったのでござろうか」
 恐る恐る、クトロンは口を開いた。
 「ラカニトを唱えました。絶命しています。すぐに医療班を」
 侍の恐ろしいところは、その剣技によるところが大きい。さらにつけ加え、魔法使いの呪文を使いこなすのだ。
 しかもレベル六にあたる高位呪文「ラカニト」を使いこなす侍など、この国にほとんど存在しなかった。
 周囲の空間を真空状態にするこの魔法は、十分な酸素を取り込んだ相手に対しての成功率は不安定であった。
 タイミング次第では、まったくの効力を得ない。しかし、キムンにとっては最悪の状態で効果を発揮した。
 それは、胸への斬撃だ。肺の中に取り込んだ酸素が押し出され、酸欠状態に陥ったキムンにとって、防ぎようのない魔法だったのだ。
 クトロンに呼ばれ、医療班が待機室から駆け寄って行き、蘇生のために寺院へ搬送するようタンカへ乗せる。
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