魔女の報酬
(2)王子様に嫌がらせ
「ドラゴン退治ねぇ……」

 メディアは裏に魔法院の紋章が描かれた羊皮紙から顔を上げ、言葉尻を濁した。彼女はすでに先刻の汚れをきれいに洗い落とし、ずいぶん見好くなっている。

「ドラゴンは二週間ほど前に忽然と現れた。襲われた村は悲惨な有り様だった。父が軍隊を差し向けたが歯が立たなかった。見事に全滅させられた」

 若々しい顔に自嘲ともみえる苦い笑いを浮かべたこの青年は、魔法院からの紹介状によるとウィルランドの世継ぎの君ロランツ王子だという。道理でずいぶんと派手な格好をしているわけである。

「だが、ドラゴンをこのままにしてはおけない。被害は広がる一方だ。人民も恐怖に震えている」

「で、魔法院に助けを求めたというわけ?」

 魔法院は魔法の使い手を育成するところであるのみならず、一種独特の組合(ギルド)の役割を果たしている。

「そう。ドラゴンは魔法の生き物だ。専門家の力を借りるのが一番だと思ってね。で、院長は君を推薦してくれたんだ。コップ一杯の水を得るために暴風雨を呼び出すような物騒な魔女だが、それだけにドラゴン退治の役に立つだろうと」

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