チャット★ティチャー
粟田は、はっと、我にかえったような表情をしてまたはにかんだ照れ笑いをした。

「なんか、語っちゃってごめんね」

「でも右近君も今の学校生活を大事にして、楽しんだ方がいいよ」

引きこもりであることなんて言えなかった。

昔いじめにあっていた粟田が今では学生の頃に戻りたいなんて思っているのに、学生である俺は引きこもっているなんて。




「よし、完成だ。」

ふと鏡に映る自分を見ると、そこには少し髪が短くなった自分がいた。

自分で言うのもおかしいが、その髪型はかなり似合っていて、自分とは思えないほどに見違えていた。

「どう?お気に召しましたか?」

少しおちゃらけて粟田が俺の顔を覗き込んだ。

もちろん返事は決まっている。

「最高です。ありがとうございます。」

俺がそう言うと粟田は今日で一番素敵な笑顔で「こちらこそ、ありがとうございます」と言った。

お会計をして、店を出ようとする俺を粟田が呼びとめた。

「さっきはあの頃に戻りたいなんて言ったけど、さっきみたいに喜んでくれるお客さんの顔を見ると、今も捨てたもんじゃないなんて思うよ。」

「右近君は何か悩みがあるみたいだけど、それも数年して、俺みたいなおじさんになればいい思い出になるもんだよ。」

そして俺が振り返り、少し歩いた所で、粟田が大声で言った。

「今を大事にねー」

人ごみの中で聞こえたその声に、すこし恥ずかしかったが、勇気づけられた気がした。


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