たぁ坊とるぅ *32page*



込み上げる想いが、喉を飛び越えて目に集まる。



「‥っく」



こんなに真剣なアイツを、初めて見た。

いつもはあんなに無愛想なのにさっ。




涙がつぅ‥っと頬を通ったその時、




「おー」



間抜けなアイツの声が、聞こえた。



「泣いてんのか?」



涙を袖で拭いて下を見れば、座ってテーピングをされながら上を見る、アイツだった。



「泣いてないっ」

「そか」



なんとなくないつもの会話に、胸の苦しさが和らいでいく。



「なぁ」

「あ?」



周りの声が、不思議と気にならなかった。

かなりうるさいハズなのに、私とアイツの声だけが、繋がってる。



「パンツ見えてんぞ」

「、っ!!」



ほんっとデリカシーがないこんの男っ!!

私は、持っていた物を反射的に投げつけた。



「あっぶね」



私は、投げつけた後ですごく後悔する。

アイツがうまくキャッチしてくれたから良いものの、そうじゃなかったら大惨事だ。



「あ、ごめ‥っ」

「さんきゅ」

「え‥」



私のピンク色のボトルをフリフリと振りながら、嬉しそうな笑顔を向けるアイツ。

そして、キュポンとフタを開けて、ストローを吸い始めた。



「ん、うまいっ」

「あ‥それっ」



私、さっき飲んだのに。


……間接キスーー‥





「最後まで見てろよ?」



いつの間にか処置が終わってたアイツは、大きな伸びをしながら私を見ていた。



「‥見てるよ。見てるから、早く勝ってこい!!8点も離されてるじゃないかっ!!」



するとアイツは、ふっと笑って



「おー」



って後ろ手を振りながら、コートに戻っていった。



< 11 / 32 >

この作品をシェア

pagetop