たぁ坊とるぅ *32page*
「泣いてないっ」
それが誰なのかすぐに判った私は、顔を上げられなかった。
「なんでお前、タオル頭に巻いてんの?」
「……ファッション」
なんでこう‥本当のことが言えないんだろう。
素直にランちゃんに巻かれたって言えば良いのにね?
「勝ったぞ」
「‥知ってる」
「そか」
そう言ったコイツは、私のタオル巻きの頭に、そのデカい手を乗せた。
その手があったかくって。
私のまつげを濡らしていただけの涙が、ポロリと膝に落ちる。
「やっぱ泣いてんじゃねえか」
「っ、泣いてない」
自分でも、なんでこんなに溢れてくるのか分からない。
するとコイツは、しゃがんで私の顔を覗き込んだ。
「‥タオル」
「は?」
その時、初めてコイツと目が合った気がする。
「タオルくれ」
「あ、えと‥」
私が戸惑っていると、コイツの筋肉質の腕がヌッと伸びてきて、私の顎の結び目をほどいた。
そして
「うっぷ、わっ」
私の顔をぐちゃぐちゃに拭いたかと思うと、今まで私がしていたみたいに、そのタオルを自分の頭に巻いた。
「来てくれて、ありがとな」
なんかやたらと嬉しそうに笑うから。
なんか、顔が熱かった。
その所為か、また涙が目の端に溜まってく。
「また泣いた」
そう言ったコイツの顔が、ふっと近くなったかと思ったら‥
「ん、しょっぱい」
目元に触れた、温かい感触ーー‥
「………………」
ニヤリと笑うコイツの顔を前に、私の頭は完全にフリーズしてしまった。
顔が沸騰しそうだったことだけ、覚えてる。