たぁ坊とるぅ *32page*
私ね、言わなきゃいけないの。
まだ言ってないの。
“おめでとう”って。
レギュラー入り初試合で初勝利だから、きっと嬉しいだろうし。
でも……言えないの。
何度も口を開いたけど、その度に言葉が出てこなくって。
ーー‥顔すらまともに見ることが出来なくて。
その上なんか苦しいし。
どうしたんだろ、私。
「あ、あのっ」
意を決してまた口を開く。
そして、同じく意を決して右上を見た。
「‥っ、」
首がもげるくらいの身長差。
コイツは、橙の夕陽を浴びながら、しっかり私を見ていた。
そして私はまた、下を向く。
「なんだよさっきから」
「なんでも‥ない」
また、言えなかった。
だって‥涙が出そうなんだもん。
「やっぱ具合悪いんじゃねえの?」
「‥だいじょーぶ」
ほんとは、大丈夫なんかじゃないのに。
すると突然、身体がふわっと宙に浮いた。
「乗れ」
「え?わっ」
おろされた先は、コイツが押してた自転車のサドルの上。
「ちょ、歩けるって」
「いーから」
そう言って私の頭をポンと叩くデカい手。
「ちゃんと掴まれよ?」
私がハンドル持つと、それに被さるようにコイツのデカい手が乗せられた。
カタンッ
スタンドが外されて、自転車はまた、私ごとチリチリと押されてく。
絶対、背中に感じるコイツの体温のせいだ。
私の心臓は、過労死してしまうんじゃないかと思うほどに
早く、速く、波打った。