この隙間、僕の存在。
それからすぐに俺達2人は体育館を突き抜け、そのまま校門へと一直線に駆け出した。

「すげーな……。本当に死ぬとなににも触れられねーのか」
「実体ないからね」
「あぁ……」


そういえばそうだ。

『貴方の身体は誰にも見えませんよ? 話すことも、触れることも不可能』

此処へ来る前、天使さんにそう言われたんだった。
それは当り前に生きている人間には経験できないことで。

不思議、とかすごい! とか言う感情の前に俺は「気持ち悪い……」そう、素直に思った。



「やっぱ雲の下の風は気持ちいいなぁ」

俺がそんなことを考えていても隣にいるこの男、樹裕は全く動じることなく。

一人清々しそうに両手を上げ、大きく伸びをしていた。


「あの上に俺達いたんだぜ? なんかすごくね」

見上げれば、風に乗って静かに移動し続ける大きな入道雲があった。

「あぁ。すげーよ」

地上から見る空の景色を。
これほど神秘的だと感じたことはないだろう。

「俺の中にある問題が解決した時には、もう此処からの景色は見れねえんだ」

それがいつになるのかは分からないけれど。

その光景を大事に、大事に視界におさめておいた。


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