1970年の亡霊
『……逮捕拘留中だった中国人船長を処分保留とし、釈放致しました。この件については、野党のみならず政府与党内に於きましても、厳しい批判の……』

 食堂でテレビのニュースを観ていた隊員達は、一様に憤りの眼差しを画面に送っていた。

「外交的勝利だとか言って、奴等は現政府の弱腰を益々衝いて来る」

「所詮、日本は武力的背景が無いからと舐められているんだ」

「領土権の主張をするのなら、海上保安庁じゃなく海自の護衛艦を派遣すべきなんだ」

「ああ。どうせなら尖閣列島に空自なり俺達を駐屯させちまって、とっとと日の丸を揚げてれば良かったのさ」

「シビリアンは今でも太平洋戦争の亡霊に怯えているから、そんな命令は絶対に下さいね」

「いつまでも太平洋戦争のトラウマを引き摺っていても仕方が無いのに。そんな事だから、俺達自衛隊は他の国から銃を撃てない軍隊だって笑われるんだ」

「念願かなって漸く、庁から防衛省へなったというのにな」

「数ヶ月前、海外派遣部隊が襲撃され自衛官に死傷者が出たが、結局は自衛隊法の改正にまでは至らなかった」

「俺達は災害救助隊じゃない。国の防衛を本務とする軍隊だ」

「そうだ、その通りだ!」

 数人だけで交わされていた会話が、何時しか食堂に居た者全てを巻き込んでのものとなっていた。

 その光景を園田は頷きながら見ていた。

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