1970年の亡霊
「お願いが……」

「三山さん、無理して喋らないで下さい。まだ容態が安定してませんから」

「急ぐんです。か、加藤さんを……」

 脈を測っていた医師は、充血した目を見開いて訴えて来る三山に、気圧されそうになった。

「加藤さんというのは、お知り合いの方ですか?」

「大事な…大事な話があるんです」

 医師は暫し返答を躊躇った。

 意識が戻ったとはいえ、容態は正直言ってまだ予断を許さない。

 何といっても、至近距離から銃弾を四発も浴びたのだ。

 彼女の腎臓は、片方が損傷し、右の肺も穴が開いたのだ。普通なら死んでもおかしくない。

 面会など無理だ。しかし、彼女は警察官であり、しかも事件の当事者である。

 急を要する話とは、恐らく事件に関わる事に違いない。

「判りました。ですが、来て頂いても長い時間の面会は無理ですからね」

「あ、ありがとう、ございます……それと、私の…私の持ち物を」

「それなら、全部こちらにあります」

 そう言って看護師の一人が、ベッド脇のロッカーから三山の私物を取り出した。

 それを手渡された三山は、財布やケータイ電話等と一緒にあったそれを見て、安堵の表情を見せた。

 彼女の血痕が点々と付着したそれは、川合俊子の部屋から持ち出したメモリースティックであった。


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