1970年の亡霊
 女は意識して視線を合わせないようにでもしているのか、歩道脇の花壇に腰を下ろしたまま煙草を燻らしている。

「遊びたいんだけど」

 女はちらりと一瞥をくれただけで、明らかに男を私服刑事とでも思ってか、警戒しているようだ。

 その態度で、男は益々確信した。

「前に友達と一緒の時、君に声を掛けられたんだ」

「ほんと?」

 訝しい眼差しを寄越す女に、男はニコッと微笑んでみせた。

 素面で逆に声を掛けて来る男には、警戒しろと散々言われているのであろう。

 なかなか女は腰を上げない。

「この前、随分とサービスして貰ったからさ、君のところで又楽しみたいんだ」

「あなた、さっきから、行ったり来たり……」

「君を探していたんだ」

「私の前、何度も通り過ぎた……」

「夜道だし、この前は結構酔っていたから、直ぐに思い出せなかったんだよ」

 そう言うと、女はやっと信じたのか、腰を上げた。

「こっちよ」

 女に案内された場所は、古いビルの裏口であった。

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