1970年の亡霊
 鉄錆だらけの非常階段を地下に降りた。

 何も書かれていない扉を女がノックした。

 感情の起伏が感じられない中国語が、女の口から零れた。

「どうぞ」

 扉が開き、顔に傷のある男が、中国語訛りの日本語で迎え入れた。

「指名、ありますか?」

「サービスがいい娘で」

「大丈夫、みんなサービスいい」

「スペシャルなサービス、出来る娘が居たら頼むよ」

 中国人の男は下品な笑みを口許に浮かべ、指でOKマークを作った。

「少し待つね。スケベな女、あなたにつく……」

 と言って、今度は指を三本立てた。

 男が一万円札を三枚渡すと、更に相好を崩し、奥へと引っ込んだ。

 三十分後、薄いベニヤ板で仕切られた狭い部屋に案内された。

 間も無く女がやって来た。

 着古してくすんだピンク色のキャミソールが、女の悲哀さを物語っている。

「シャワー、します。服、脱いで下さい」

 抑揚の無い女の言葉に、

「シャワーの前に、ちょっと話があるんだ」

 と、男の言葉が被さった。



 
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