1970年の亡霊
 傷の手当もそこそこに事情聴取が渋谷署で行われた。

 三山は、どう思い返してみても、怨恨を受けるような心当たりが無いと証言した。

 渋谷署側も、状況から見て通り魔による婦女暴行事件と判断した。

 三山はその場で被害届を出したが、事情聴取の中で答えに詰まったのが三枝の事であった。

 偶然、渋谷で元上司の三山を見掛けた三枝が、声を掛けようとしたところ、不審な男が尾行していたので、様子を窺がっていたという。

 その男の動きがいよいよ怪しいと睨んだ瞬間、三山に襲い掛かったので助けに入った……。

 これが三枝の供述であった。

 渋谷署は三枝の供述を疑う事無く、そのまま信じた。

 身なりこそ警察官らしくないが、三枝は警視庁の歴とした特別捜査官である。サイバーパトロール課という聞き慣れない課だが、警察官に変わりは無い。彼の証言を疑う捜査員はいなかった。

 誰もが、この夜の出来事を単なる通り魔事件だと思った。

 翌日、三山は入院した三枝を訪ねた。

 三枝の容態は、肋骨を折った他は思ったよりも大した怪我ではなかったようで、三山が病室を見舞った時は、旺盛な食欲で病院食を平らげていた。


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