1970年の亡霊
「良かった、元気そうで」

「課長、わざわざ来て頂くなんて」

「昨夜はドタバタしちゃって、三枝君にきちんとお礼も言えなかったからね」

「礼だなんて、たまたまですから。誰だってああいう場面に出くわしたら、同じ行動しますよ。残念なのは、僕に格闘技の心得が無かったばっかりに、犯人を捕り逃がしてしまった事です」

「ねえ……」

「はい?」

「本当にたまたまだったの?」

 じっと見つめられた三枝は、直ぐに目を逸らし照れ笑いを浮かべた。

「たまたまというのは本当ですが、渋谷からではなく、有楽町のビアホールからでしたけどね」

「やっぱりね。どうして昨日はそう話さなかったの?」

「そのまま供述しちゃうと、ややこしくなるかなって……」

 以前も感じた視線の主は、案外三枝だったのかも、と一瞬思った。

「君が尾行者に気付いたのってどの辺から?」

「はっきりと気付いたのは、山手線に乗ってからですね。目黒を通過した辺りだったかな」

 三山自身が強く視線を感じ、尾行者の存在を意識した辺りと一緒であった。




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