―you―
3 手遅れになる前にしなければいけない事
「それでいいと思うよ」
 この前、君が「私」なんて自分の事を呼ぶから、少し笑ってしまった。
「そのままのほうが君らしい」
「そうですか?」
 俺も俺に慣れちゃったんですけどね。君は続けた。
 あの日から何度となく君に会い、私達は古い友達のような仲となった。私と君は一回り近く年が違う。それなのに、こんなにも早く友達のような関係を作れたのは君のお陰だろうか。
「母に言われたんですよ」
 君は例のドーナツを口にする。ひょっとして、君の食べる物はこれだけなのか?
「ちゃんと飯を食べろ」
「あー、それも言われましたけど」
 もぐもぐ。
「優も結婚していつか母親になるんだから、その呼び方やめなさい。今から心がけないと、もう直らないわよ」
 って。
「俺、次の誕生日で二十二歳ですよ?まだ結婚とか早いですよね」
 君は少しむっとした表情を作る。
「あ、元気ですか?奥さん」
 急に話を振る。
「まだ結婚はしてないよ。うん、元気だ」
 私はふと一つの案を思いついた。
「君、実際ちゃんと飯を食べているのか?」
「…」
「舞台役者って体力勝負じゃないのか?」
「そうなんですけどね」
「うちに食べに来ないか?オクサンは、これが料理上手なんだ」
「いいんですか?」
 君の目がキラッと光った。食べるのが好きなのは本当のようだ。
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