ゴシップ・ガーデン
「このサッカーボールを
蹴った奴を見つけ出して
一言文句言ってやりたい」


あたしは、
転がったサッカーボールを
にらんだ。



ヒオカ先生は、
そんなあたしを見て
困った顔をした。




「…あたしは知ってるもん。
先生がどれだけこのバラを
大事にしてきたか」


うつむいて発した
あたしの声は、
震えていた。




ヒオカ先生は、

雨の日も、
太陽が照りつけてても、


毎日必ず、ここにいた。



あるときは
バラの専門書片手に。


うまく咲かなかった時の
うなだれた首も、


見事に満開になったときの
誇らしげな背中も。

そして
そっと優しく
花びらに触れた指も。


どうみても
インドアなくせに、
日に日に焼けてく横顔とか。




あたしは知っている。



「…それなのに、
倒されたって仕方ないって、
あきらめたりしないでよ…」




ヒオカ先生は、
軍手を外して
立ち上がって

あたしと向き合った。


あたしは反射的に
うつむいた。



目の上に影が
できたと思ったら、

ポン、ポンって、
頭に優しい手の平の
感触がした。



顔を上げたら、

ヒオカ先生と
磁石のように
目が合って、


あたしは一瞬
身じろぎできなかった。



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