亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
またこいつは…と言わんばかりにげんなりとするユノ。レトはいまいち訳が分かっていない様で、「………かんきん?」と独り首を傾げている。
二人の反応にケラケラと笑いながら何事も無かったかの様に踵を返し、ノアは再び歩き始めた。
前に向き直ったノアの顔からは、途端に……笑みが消えた。
意識しなければ寒暖を感じることもないこの身体。極寒の地といえども、ノアには寒さなど無縁のものなのに……酷い寒気が、全身を襲っていた。
ただの寒気ではない。………これは、悪寒と言うべきか…とにかく………いいものではない事は、確かだ。これが何なのか、はっきりとは分からない。曖昧で、不確かなこれは………。
(――…ああ………もう…)
…何となく。
何となくだが………ノアには、分かっていた。これは。
…これは、予感だ。
虫の知らせ…なのだ。
出来れば的中してほしくない、嘘であってほしいそれは…。
(………どうして…こんな………)
………こんな。
………。
………歩みを止めぬまま無意識で閉じていたらしい瞼をそっと開くと、ノアは形のいい唇の微かな震えを抑えるかの様に小さく噛み、冷たい吐息を漏らした。
「―――こちらが、謁見の間に通ずる扉となります」
次いで出た己の声は自分でも驚く程震えていて、冷静さの欠片も無い様な情けないものだったが、そんな小さな変化には誰も気付かなかったらしい。
…それも当然だろう。ノア以外の全員が、謁見の間に通じる扉…がある筈の、それらしい影も形も何も無い空間を凝視するのに忙しいのだから。
長い廊下は、視界の先にまだまだ続いていた。
今現在城内のどの辺りにいるのか見当もつかないが、立ち止まっているそこは廊下の真ん中。扉など、何処にも無い。
「…あのさぁ…ここ、廊下だよね?」
またおふざけか何かか、と眉をひそめるユノに、ノアはにこりと微笑んだ。
「目に見えるものだけが、真の姿形ではないのですよ…王子様」