亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
その嘲笑とも取れる笑顔にユノが反論しようと口を開いたが、それよりも早くノアの言う真の姿形とやらが、うっすらと色付きながら前方に現れた。
肉眼で捉えられるか否かという蜃気楼の如き曖昧な形が、ぼんやりと扉の姿を形取り…数秒の間を置いて、それは首を真上に曲げなければいけないくらいの、それはもう大きな重々しい扉へと変貌した。
「………」
「……大きい、ね…」
予想外の登場と、その凄まじい迫力と存在感に、全員が息をのんだ。
深みのある青色で彩られた、美しい扉だった。左右対称の取っ手は金で作られているのか、錆一つ見当たらない。細部にまで見事な装飾が施されており、その精巧さは見とれる程だ。長い年月を感じさせない美しさが、そこにはあった。
謁見の間を抱く役目に、確かに相応しい扉だと誰もが思うだろう。
「…“守人”の役目は、城を守護する事です。そのため、城内の空間は私の魔力で捩曲げているのですが、中でも玉座のある謁見の間は、城の要。…念には念を入れて、ここだけは見えぬ様にしてありました」
普通の守人には空間を歪ませる事など出来ない話だが、これは桁外れの魔力を持つ魔の者、ノアが守人であるからこそ、出来る所業だ。建物に風化が見られないのもそのせいだ。
驚愕の熱が冷めずに未だ口を開いて目の前の扉を見上げる一同。
そんな彼等を尻目に、ノアの入れ墨だらけの真っ白な手が、そっと扉の取っ手に伸びた。
その細い指先が触れる前に、扉は自ら鈍い金属音を奏でた。
―――ガッ、ゴンッ…。
大きな錠前が外れたかの様な低い音色が響き渡ったかと思うと………ノアの前進に伴い、扉はゆっくりと……その重い口を開き始めた。
ギリギリ…と、金切り声に似た高音と低い金属音の耳を塞ぎたくなる不協和音を背景に、全員の目の前に、広々とした空間が広がっていく。
扉の口は開くところまで開き終えると、さっきのが嘘の様に鳴き止んだ。
開閉音の余韻が尾を引いてやがて消え去った後…―――…しん…と、辺りは途端に静けさを纏う。