亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
扉の口の向こうに、大広間よりも広く、そして奥行きのある部屋が見えた。
薄暗く、冷たい空気と静寂を纏わせた部屋は誰もいないというのに……凄まじい存在感と威厳を放っていた。この先の空気の質から既に違う気がするから、不思議だ。
傷一つ無い大理石の床は、この暗がりの中でも高貴な光を放っており、高い天井の美しい装飾を鏡の如くそのまま反射していた。
城というこの建物自体も、美しい芸術そのものだったが…この謁見の間という空間だけは、あらゆる芸術の極致だった。
足を踏み入れるのも、この目に映すことさえも躊躇われる場所。
だからこそ、王が存在するのに相応しい場所。
…そんな恐れ多い空間に軽い足取りで一歩入ったノアは、呆然と佇むレト達に向かって手招きをしてきた。
「……皆さん開いた口が塞がらないといったご様子ですね、とっても馬鹿みたいで滑稽です。それはさておき…ご感想は後でお聞きすることにして、まずはお入り下さいませ」
隠す気の無い含み笑いを漏らし、ノアは我先にと謁見の間の奥へ歩を進めた。
促されながらも戸惑いがちに踏み出せば、天井は明かりなど灯っていないのに、一同の頭上を青白い光が照らした。
不思議に思って真上を見上げた、レトの視界に飛び込んできたのは……青く光り輝く、大きな月だった。
(………うわぁ……)
天井に敷き詰められた大きなガラス越しに見える夜空。黒いキャンパスの真ん中に、厚い雪雲を払いのけてその存在を主張する弓張月。
完全に満ちていない欠けた月だというのに、それは何故か満月よりも神々しく、際立って見えた。
あまりの美しさに感嘆の息を漏らしていれば、ユノが無言で早く進んでと言わんばかりに手を引いてくる。
ユノの意識は、頭上の月などには微塵も向いていなかったらしい。
言わずもがな、彼の興味の矛先はただ一つだった。
無意識で加速するユノの歩み。
瞬き一つせずただただ凝視する彼の熱い眼差しの先には、月明かりに照らされた………威厳高き光景。
そこだけが別世界であるかの様で、レトは思わず息をのんだ。
―――あれが、玉座か。