亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

一際華美に、細かな装飾が施された高台の、真っ白な階段を上った先に…それは、あった。

―――青く輝く、玉座。

その周りは綺麗に保たれているというのに、威風堂々と孤立する玉座だけが、何故か至る所に傷が見られた。

刃物が掠った跡、突き刺した跡、支える四つ脚には黒く焦げた跡もある。金が埋め込まれた左右の肘掛けに至っては、角が削れてしまっていた。
中でも一番レトの目を引いたのが、長い背もたれの辺りにある黒い染み。

…黒と言うよりも赤黒い色で、なんだかそれは血痕によく似ているとレトは思った。


洗練された美しさの中、一つだけ浮きだつ王の玉座。この国の歴史の長さを物語るその痛々しい姿が、逆に見る者を圧倒させていた。




「………あれ、が…」

不意に立ち止まって呟いたユノを横目で見遣れば、彼は子供らしい好奇心と緊張感に溢れた、何とも言えない感情をその瞳に宿らせ、玉座を見上げていた。
高い位置からこちらを見下ろす玉座の、数メートル手前。近過ぎず遠過ぎずのこの微妙な距離は、一体何を物語っているのだろうか。
無言で繋いでいたユノの手に力が込められる。


自分と同じくらいの大きさの、しかし武器を握る事に長けた汚れた狩人の手とは違う………汚れを知らない綺麗な手。
とても、羨ましい手。

そんな華奢な彼の手は、小刻みに震えていた。

恐る恐る横から覗き込みながら何となく手を握り返せば、玉座に釘付けだった青い瞳が、苦笑と溜息を添えてレトを映した。

「………変なの…」

「…………何、が?」

「………情けない事にね………僕………ビビってるよ…」

「………」




…なんだか怖いよ、と彼らしからぬ弱音を呟き、何かに縋るかの様にこちらを見てくるユノ。
祖先の偉大な遺産と、その幼い身には大きすぎる夢を前にする彼の姿は……とても、弱々しくて…見ていられなくて。






「……………僕…ずっと、見てるから…」






静かにそう言って、レトはそっと…繋いでいた手を解いた。
少し意識して笑顔を浮かべてみたが、相変わらずの不器用な笑みだった様で、ユノは苦笑を漏らした。
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