亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ふと振り返れば、数歩後ろに佇む母と目が合った。サリッサは何も言わなかったが、その閉じた唇で小さく微笑み、頷いた。
はっきりと勇気付けられた訳でもないのに、彼女の笑みにそっと…背中を押された様な感じがした。
少し照れ臭くなって…加えて照れている事がなんだか悔しくて、ユノは直ぐに顔をしかめて逸らした。そんな息子の一見素っ気く見える態度にサリッサは悲しげに俯いたが、傍らに立つドールが「照れ隠しよ」と囁いた。
男って不器用なのよ…などという余計な台詞が聞こえてきたが、ユノは断固無視を決め込んだ。
「……座れば、いいのかい?」
玉座に続く短い階段の手前で礼儀正しく佇むノアを見遣れば、小さくコクリと頷いた。
「…ご覧の通り、一筋の月明かりが不自然にも玉座を真っ直ぐ照らしているでしょう?…これは創造神アレスの迎えが来ていらっしゃる事を表しています。…この階段を越え、玉座に座って頂ければ…全ての終わり、君臨となります」
「………分かった」
…後は、座るだけ。
それだけ。それだけなのに…やはり胸の内の鼓動は酷くうるさいし、手足の震えも止まらない。
ユノは静かに深呼吸を繰り返し、頭上の月を見上げた。
この世に生を受けた時から決められていた、今日という運命を前に…本当は、緊張と不安でユノの心中は溢れていた。
しかしこれで…これで終わりだと思うと……本の少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。何かを確かめる様に、もう一度だけ深呼吸をして。
背後に佇むレトに振り返り。
「―――…行くよ、僕」
「うん………行って、ユノ」
最後に綺麗な満面の笑みを浮かべると、ユノは直ぐさま真剣な面持ちで玉座に向き直り…確かな足取りで一歩、前に踏み出した。
視界の中央を占める神々しい玉座の姿が、少しずつ大きくなっていく。
さして高くもない階段の段差が、この時ばかりはやけに高く見えた。