亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…本の数歩の距離は、直ぐにゼロとなった。
ノアの美しい緑の長髪が、視界の隅にちらついている。目指す玉座の一点のみを見上げ、ユノはノアを横切った。
そして、恐る恐る階段に足をかけようとした途端。
「本当にいいのですか」
その声は恐らく、ユノの耳にしか届かなかっただろう。空気を僅かに振動させるくらいの、本当に小さな声。
そして、訳の分からない言葉の列。
寸前で足を止めて怪訝な表情を浮かべながら、ユノは声の主を見上げた。
「……何だい、急に」
首を傾げて問い返せば、声の主…ノアは、笑みを浮かべた。
「………いいえ。……………何でも、御座いません」
それ以上は何も言うつもりが無いのか、唇を固く結んでしまった。
それに対しユノは特に気に病む事も無く、相変わらず変な奴だな、とだけ軽く思い済ませた。
再度向き直ると、ユノは階段の最初の段差に足をかけた。固い大理石の靴底を弾く軽快な音が、鳴り響いた。
気持ちとは裏腹に、足は淡々と階段を上る。
ついさっきまで見上げていた筈の玉座が、視線と同じ高さに、遂には手前の見下ろす位置にまで来たところで、一旦足を止めた。
ひんやりと冷え切った玉座。
この数十年、誰の温もりも宿していない………主無き、主の居場所。
無人の、玉座。
僕は、本当に。
本当に、王様に、なるのか。
王様に。
未だ現実味の無い目の前の現実。
これは夢幻ではないのだろうかと頭の片隅で現を疑いながら…。
ユノはそっと。
冷たい玉座に、手を伸ばした。