亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



自室の唯一の出入口である扉がやけに乱暴に開けられたのを、ケインツェルは耳にした。


今夜は久しぶりに表に顔を出して下さった老王様と共に、謁見の間において賊討伐の指揮を取る予定だった。…だが、昼間に激しく吐血してからというもの、寒気と身体の痺れが続き、ケインツェルは仕方なく自室にひっそりと篭っていた。老王独りで指揮を取るのはなんだか少しばかり不安だったが、老いた王といえども、腐っても王。戦乱の火を目にすれば直ぐに勘を取り戻すに違いない。


昼から何も口にしていないが、幾分体調は良くなっていた。椅子に座り、ケインツェルは気分転換に読み古した書をダラダラと読んでいたのだが。


まだ数頁にしか至らぬ所で、騒音は鳴り響いた。





…こんな夜に。しかも上司の部屋の扉をあんな乱暴に。一体何処の無礼な部下だろうか。それとも、何か火急の報せか。



不思議に思いながら本を閉じ、背後の扉に振り返ったケインツェルは。







予想だにしていなかったその光景に、何が楽しいのか…ニヤリと、口元を歪ませた。





「………おーやおーやおやおや…諸君、これは…何事かね?………えらく物騒だねぇ?」

光る銀縁眼鏡のレンズの向こう、ケインツェルが見たのは、五、六人の部下の姿。



武装し、鋭利な剣を片手にぶら下げた………部下の、姿だった。








何故、武装した部下が自分の部屋に踏み行っているのか。
何故、彼等は先程から何も言わず、剣先をこちらに向けてジリジリと歩み寄ってくるのか。
―――これがどういう状況なのか。




回転の早いケインツェルの頭は現状を一瞬で理解したが…彼はこれといって目立った反応を見せないどころか……明らかに殺気を露わにする兵士達を前に、その不気味な笑みを深めただけだった。



にじり寄って来る各兵士の顔をジロジロと眺めながら、ケインツェルは喉の奥でクツクツと笑い、余裕たっぷりに頬杖を突く。



「…あぁ、諸君………君達は誰の命で私を殺しに来たのかね?…今なら扉を蹴り開けた事を許してあげるよ…」

「………」
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