亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
しかも………こんな…………こんな…。
………小娘、なんかに。
「…………何よ!!」
途端、悔しそうに身震いしていた夫人は気品も何も無く、溜まっていたものを吐き出すかの様に二人に向かって喚きだした。
震えながら頭を抱え、乱暴に振り回される彼女の手は扉横に置かれていた見事な花瓶に当たり、名器は美しい花諸共床に落下し、砕け散った。
「………愚かだわ!!愚行だわ!!…馬鹿げている!!………貴族でさえない下級民が………王族に…?………フフッ……笑わせてくれるわ!!……………私は…認めないわ………………サリッサ。………可哀相な娘…!………今に貴女は苦しむわ!己の身の上に嘆くのよ!!そして後悔する………………過ちを犯したってね!!………これからふりかかる不幸は全部、貴女のせい!!自業自得と思いなさい!!どんなに嘆いても恨んでも、全部、全部…」
「マノン夫人」
狂気と化した夫人からの非難の数々は…突如、静かな低いシオンの一言で、制され、断たれた。
真直ぐ夫人を見据える彼の瞳は、鋭利な刃の如く鈍い光を宿し………明らかに………憤慨していた。
「………彼女を……サリッサを悪く言わないで下さい。………元はと言えば、全て私のせいです。………私のせいで、彼女はこれから苦しむかもしれない。……泣かせてしまうかもしれない。………………ならば私は………彼女を全身全霊で守っていきます。………私の命が尽きるまで………ずっと…ね。分かって頂けますか、マノン夫人。………それと一つ、言わせてもらいますが……」